○ 展示期間 : 2024年9月10日(火曜日)~2025年2月23日(日曜日)
○ 展覧会場 : 大邱美術館内、第1展示室
○ 作 家 名 : ワエル・シャウキー(Wael Shawky、1971~)
○ 展示構成 : 映像作品3点及、彫刻、インスタレ─ションなど、70点余り
大邱美術館では「2024年 海外交流展《ワエル・シャウキー》展」を開催致します。この展示は、世界的に活動の場を広げているエジプト・アレキサンドリア出身の作家ワエル・シャウキー(Wael Shawky、1971~)の韓国内における初の国公立美術館での個展であり、彼の多彩な作品世界を一堂に会して鑑賞することのできる特別な機会となります。ワエル・シャウキーは映画やパフォーマンスなどで、物語という形式を結合させ、絵画やドローイング、彫刻やインスタレ─ション、また音楽など、様々なメディアを併合し、総体的な芸術世界を展開します。彼は作品によって「記録された歴史をどこまで信じることができるか」という問いを中心に、虚構と現実とが出会う地点を追求し、新しい歴史的な見解を提示します。
ワエル・シャウキーは幼年時代にエジプトのアレキサンドリアとサウジアラビアのメッカで過ごし、遊牧民社会から近代化された社会への転換を目の当たりにしながら成長しましたが、その背景が彼の芸術的霊感の源泉になっていると話します。彼はアレキサンドリア大学を卒業後、アメリカのペンシルバニア大学院に進みファインアート(純粋美術)を学び、歴史に対する独創的な見解を提示する作品で国際的な名声を得ました。最近では、2024年4月から11月かけてイタリア・ヴェネツィアにて開催されている「第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展」のエジプト館の展示で出品作家として参加していますが、帝国の統治に抵抗したエジプトのウラ─ビー革命(1879-1882)を再解釈した映像作品〈ドラマ1882D(Drama 1882)〉が大きな注目を浴びています。
この度の本美術館にて開催される《ワエル・シャウキー》展では、新作の映像作品〈恋物語(Love Story)〉(2024)をはじめ、〈Al Araba Al Madfuna I〉(2012)、〈私は新しい神殿の賛歌Ⅰ(I Am Hymns of the New Temples)〉(2023)を初公開します。これらの作品は、それぞれ韓国、エジプト、そしてイタリア・ナポリの近郊にあった古代都市ポンペイを背景に、神話を共通のモチーフとして扱います。シャウキーはこの個展で出品した作品について「私たちの人生と超越的な世界がどのように結び付いているのかを表現した」と語っています。これは「愛」、「超自然的存在」、「神」に対して信頼のような無形の価値や形而上学的な世界が現代人の生きざまとどのような関係を結んでいるのかという作家自身の持続した追求と共通しています。本美術館内の第1展示室にて繰り広げられる3点の映像作品における物語は、互いに異なる時空間から始まりますが、多様な文化を基に古代と現代とが結び付いた物語を提案するワエル・シャウキーの作品世界が観覧に訪れた方にはリアルに映ることでしょう。
まず、1点目の新作〈恋物語(Love Story)〉は、韓国の口伝説話と伝来童話(民話)をパンソリ(판소리:韓国の伝統的民族芸能で、パンソリの「パン:판」は、多くの人々が集まる場所を意味し、「ソリ:소리」は音を意味する)によって再解釈された作品です。「カイコ(蚕)姫」、「金の斧、銀の斧」、「ウサギの裁判」という3つの伝来童話を通じて、ワエル・シャウキーは物質的世界と非物質的世界という相反する2つの世界が一つの物語となって共存する構造を実現させ、抽象的な概念である「愛」がどのように物質的に具現化されるかを深く追求しています。この作品では、パンソリの創意された物語と韓国の伝統的な獅子のタルチュム(탈춤:韓国の民俗芸能、紙や瓢箪で作られた仮面を被って行われる踊り、演劇)が相互作用を引き起こす独特な視覚における経験をお届けします。
次に、2点目の映像作品〈Al Araba Al Madfuna I〉は、上エジプト(現在のカイロ南部からアスワンあたりまで)に位置する村の名前が付けられている作品で、ワエル・シャウキーが2000年代初めにこの地域を訪れた時の経験を基に制作されました。この作品は全3部作にて構成されていますが、この度の展示では2012年に制作された第1弾が披露されます。ナイル川の風景で始まる約20分間の白黒映像は、彼自身の経験と文学的要素を結合させ、古代エジプト神話と現代のエジプト社会を独創的に組み立てている作品です。シャウキーは物質的な救援に対する人々の期待と形而上学的な体系とがどのように互いに繋るのかについての関心事をユーモアと風刺を交えて表現しています。
そして、3点目の映像作品〈私は新しい神殿の賛歌Ⅰ(I Am Hymns of the New Temples)〉については、古代イタリアの都市ポンペイを背景にギリシア·ローマ神話と古代エジプトの宗教間の関連性を探求している作品です。シャウキーは、この作品にてゼウス(ギリシア神話の主神、天空神、雷霆神)の愛を受けつつ、ヘーラー(ギリシア神話に登場する最高位の女神、ゼウスの配偶者)からの嫉妬を避けるために牝牛に変身させられたイオ(ギリシア神話の女神官)に焦点を当てています。彼は、ギリシャ、ローマ、エジプトなどの多彩な文化が絡み合い、必然的に結び付いたポンペイを想像の空間、可能性が開かれた空間へと広げます。激情的な物語のラストシーンでは、太初(天地の開けはじめ)の静けさに戻るような無常さが伝わってきます。ワエル・シャウキーの作品は、歴史と神話との関係に注目し、宗教的、且つ文化的なアイデンティティに対する現代的観点を独創的に突きつけます。彼は物語が作られ伝えられる順序を探求し、このような過程が歴史的現実として、どのように形成されているのかを分析し再解釈します。このことを通じて、私たちが信じている「事実」が決して一つの観点のみから定義されるのではないことを強く語るように表現し、多様な解釈の可能性へと導きます。
ワエル・シャウキーは、この展覧会のために2022年から数回にわたって韓国を訪れ、新作のための調査と撮影を行いました。この度の展示はパンソリと口伝説話、文学の結合、そして神話をテーマに映像のみに留まらず、多様なメディアを網羅するインスタレ─ション作品が主な観覧のポイントでもあります。また、新作〈恋物語(Love Story)〉からインスピレーションを受けたというドローイング作品も共に初公開されます。他の文化を結び付け、歴史に対する新しい洞察と経験を提供するワエル・シャウキーの芸術的な旅程の世界に皆さまをご招待する《ワエル・シャウキー》展を通じて、過去と現在、神話と現実、そして多様な文化が交差する壮大な物語に遭遇して頂きましょう。